戦略思考:「アクティブコントロール」

 バトルスピリッツにおける緑の特徴といえば? ほとんどのバトスピプレイヤーはご存知だと思いますし、もともとTCGの元祖である「マジック・ザ・ギャザリング(以下MTGと略)」からの伝統として、世界の多くのTCGで共有されている傾向です。

  1. 他の色に比べて、スピリット(クリーチャー等)のBP・サイズに優れる。大体どのコスト域においても他の色の最高値か1ランク上の強さを持つ。
  2. 他の色に比べて、展開能力に優れている。コアなどのリソース(マナ、エネルギー等)を増やす能力、カードを割安で場に展開する戦術を豊富に持つ。
  3. 他の色と比べると、上記以外の能力は主にスピリット(クリーチャー等)の戦闘に関する物に限られる。ただし直接場のカードを破壊できるなど、相手のリソースを失わせたり急場の戦局をコントロールする効果はかなり数が限られており、使いにくくクセも強い。

 これらの特徴を統合すると、緑には他のデッキが単純に利用しやすい特色が多く、サポート色としては非常に有力だといえます。その反面、緑中心の戦略は『出して殴る』式の、展開と積極的な攻撃に頼った相手の手玉に取られやすい単調なものになりがちです。いわゆるビートダウン。十分なスピードによって速攻で勝つのが理想ですが、緑の展開は場のカード/リソースを増やしてゆく事に主眼を置いているため、たいてい瞬間的な速攻のスピードでは他の色に劣るようにバランス調整されています。
 初期のMTGでは伝統的に速攻バーンデッキやコントロールデッキが強力だったため、長いあいだ緑中心のクリーチャー展開デッキは実践的な戦略とは考えられていませんでした。しかし2000年からのマスクス後期〜インベイジョン時代に緑がトーナメントシーンのトップに返り咲く時代が訪れました。この時期、確かにカードが単純に以前より強くなったのも一因でしたが、緑の覇権を支えた最も重要な要素はそれらの強カードを使いこなすために理論化された二つの戦略概念でした。まずその第一が『アクティブコントロールです。
 場での強さと展開に優れる緑の基本戦略は、より強いカードを相手に先んじて場に出し、攻撃して押していくことです。相手側からすれば、何もできなければ負けてしまうので防御策をとる必要がありますが、かといって力で劣る自分のカードで押し返すのでは丸損です。 従って、対策は相手の場のカードを特殊効果でやり込めるカードをタイミングに合わせて使う、後の先を取って場の劣勢を逆転させるコントロール戦略を用います。緑の側はそれに更に対抗できる余力があればいいのですが、大抵自分リソースは場に展開しきっていますから、相手のコントロール力にいいようにやられてしまう宿命でした。
 アクティブコントロール理論以前は。
 ところで、ここでちょっと考えて欲しい点があります。

  • そもそも速攻/ビートダウン・コントロールなどのデッキは、一体なぜそう呼ばれているのでしょうか?どのような理由からそう分類されるべきなのでしょうか。

 結構TCGの中級者卒業段階でなければ、この問いにきちんと言葉で回答を説明できないプレイヤーも多いはずです。その答えはこうです『速攻は自分の絶対的な勝利を目指す戦略、コントロールは相手との相対的な勝利を目指す戦略である』
 TCGは通常プレイヤーの勝利条件ないし敗北条件が決められています。バトスピを含め多くのゲームでは、最も重要な項目は「ライフが無くなったプレイヤーは負け」(ちなみにこれは通常「規定得点を得たプレイヤーの勝ち」と同じ意味を持ちます)のはずです。ですから、速攻デッキは相手の敗北≒自分の勝利に直接向かう性質を持つカードを重視します。相手より早く攻撃して、相手より先に敵のライフを0にする。一般に使われている『速攻・ビートダウンデッキ』という言い方よりは、正確にはむしろ『アクティブな(能動的な)戦略のデッキ』と呼ぶべきでしょう。
 これに対しコントロールの発想はまったく別の視点です。コントロールデッキにおいては、自分と相手のどちらが勝利/敗北条件に近いかを考えて、その時点での勝ち負けの差に注目します。ゲームは時間が経つにつれ、普通はどちらかの勝利に向かって推移していくはずです(でなければ勝負は着きません)。コントロールの発想は『最後にはどちらかが勝つのだから、それまでの間に相手より勝っていれば結局勝つのはこっちだよね』というもので、相手に対してどれだけリードしている/されているかを重視します。 相手が押している局面なら、それを逆転する方法を狙います。こちらが勝っている場面なら、出来る限り自分の優位を守る戦略を取り、相手の反撃の芽をつぶしてゆきます。そうやって勝敗差を積み重ねていって、その総リソース差が十分大きくなれば相手を倒すのはもうカンタン、何をどうやったってまず勝てるでしょう。コントロール行為が絶対の前提にあって、その結果としてゲームに勝つ/負けるのです
 ちょっと表にしてみましょう。

アクティブな戦略(速攻・ビートダウンなど)のデッキ コントロールデッキ
優先事項  相手より先にゲームに勝つ  ゲーム中はできるだけ常に相手より勝っている。
    (従ってゲームに勝つのは結果的)
速さ  相手より先に動ける速さが重要。速攻デッキと相性はいい。  本質的に、時間がかかりすぎてゲームに負けるのでなければ、どれだけ勝負を引き伸ばしても構わない
展開  効率の良い戦略の方がが有利。ある程度場にリソースを展開して、より有効に攻撃してゆくことを目指す。  場にリソースを展開するのは、結果としてより多くのリソースや有利な状況を得るため。あまり場に出しすぎると失うリスクも多い
  (従って相手により多くの打撃を与えるのなら、自分がそれと引き換えにリソースを失うのは構わない。)  
攻撃  相手より優位な場の展開を利用して押す。先手必勝  相手のリソースを効率良く削る/無力化することを考える。後の先を取るカウンター狙い
    (従って通常は場に展開しすぎないように心がける)

 この二つの戦略の方向性は全く異なる考え方ですが、実は背反ではないのがポイントです。確かにデッキの方向性として選択肢をどちらかに振り分ける必要がありますが、軸の両極端として完全にどちらかを選ぶ必要はありません。アクティブな戦略を補完し強化するために、特定のコントロール力が必要なケースもあります。バトスピのほかの色と同じく、緑のカードもアクティブ向きやコントロール用に様々な能力が用意されており、『7割攻めで3割がコントロール』とか『五分五分にバランスで』あるいは片方に全振りなど、好みに合わせてファジーに選ぶことはできますし、そのバランスが戦略的に大きな差であるケースも多々あるのです。
 問題は、個々のカードをプレイヤーがどっち向きなのかきちんと認識して使っているかどうかです。それは相手や局面によっても変わってくるのがバトスピの戦略的な奥深さだと言えます。例えば同じ手札を捨てさせる緑のスピリットでも、マッチュラとハングリートゥリーはこの点性質は正反対です。私の白緑速攻に1手目でマッチュラを出せれば、そのプレイヤーの勝つ可能性は2割上がります。しかし1手目でハングリートゥリーを出してしまうと、そのプレイヤーの勝つ可能性は3割下がる(多分0になる)のです。しかし他のデッキに対しての効果の性質は、相性によって逆転していることも多いでしょう。
 さて、ここまで長々と前座の説明を続けてきて、ようやく本題の「アクティブコントロールの説明にたどり来ました。
 緑のような展開中心でさらにアクティブな戦略を取っていると、ゲーム中できることは大抵『出して殴る』ビートダウン一辺倒になりがちです。こちら側はコントロール目的の効果は数を厳選してデッキに積んでいるでしょうから、コントロールデッキ相手だと向こうが優れるコントロール力を背景に、フラッシュのマジックなどで常に揚げ足を取られている気分でしょう。
 でも、本当にそうなのでしょうか?
 普通のTCGで使えるカードの数と範囲は有限です。インターネット以前からリストは探せばきちんと公開されています。ですからデッキ構築の時、仮想的を意識してきちんと戦略を考えてあれば、デュエル中に相手が何を使ってくるか・今相手が使う事ができるカードは何か、全部事前に考えておくかその場で推察することは出来るはずなのです(これが相手の知らない『秘密兵器』、予測しづらい『地雷』と呼ばれるカードに一定の評価がある所以です)。
 少なくともコントロールデッキはビートダウン相手にそう準備して来ているはずですから、アクティブ戦略だってそのぐらいの労は取るべきでしょう。少々慣れが必要ですがこの点さえ把握しておけば、コントロール相手であっても向こうの手の内はおのずと分かってきます。とすれば、実は『相手にカードをいつ使わせるかは、アクティブなデッキの側がコントロールすることができる』のです!これがアクティブコントロールの根幹概念です。よく覚えておいて下さい。
 通常アクティブなデッキの方が、場に展開しておいて攻撃に利用できるリソース/スピリットの質も量も多いはずです。となれば、アクティブなデッキが攻めれば敗北を回避するため、防御側は何かコントロール行動を取らなければならない(もしくは『取らないことを選択しなければならない』)のです。 そのとき相手の取れる行動が事前に読めているのなら、選択権のある方は攻撃側ですから『相手がどう対応したとしても、比較すればこちらより相手が損をする』ように攻撃戦術を決めることができます。敵の逃げ道を大体押さえた上で攻めれば、相手は損害を我慢するか、もしくはコントロールカードを(攻撃側が意図したように)不利な状況で非効率に撃たざるを得ないのです。展開である程度勝っていれば、それによって相手が次ターン以降も受けるデメリットに比べると、こちらが捨ててもいいカードなんていくらでもある(当然攻撃側が決めています)のですから。
 アクティブコントロールはこのようにして、本来直接的なコントロール効果を持たないカード(単にBPが大きいだけの能力無しのスピリットなど)を利用して、相手をコントロールするための戦略思考です。攻める側が先手の優位を利用して、相手をこちらの有利/向こうの不利に誘導してゆくのが目的、いわば格闘ゲームでひっきりなしに相手に連続技を仕掛け、嫌な二択を強要するよう攻め立てるのに似ています。
『どちらに転んでも、こっちが得をする』この発想はMTGで2年半にわたる緑の覇権を生み出し、他のクリーチャー展開・バトルが重要なTCGでも多くの勝利をプレイヤーにもたらしました。そして、スピリット展開が軽減コストによってデッキタイプを問わずゲーム序盤戦の基礎となる、バトルスピリッツでは大変重要な知識です。