ここから先は私の個人的な愚痴です

 ……ので、気分を害したくなければ読まれない方がいいでしょう。この半月あまり、プレイグループの心配ばかりして他のほとんどを放り出し、ここまできた心労が悪意となって今私に筆を取らせています。

 ではなぜコントロールデッキの人たちが、ミカファールに対してより悲観的だったのか。答えは簡単。コピーデッキのシェイロンデスや蟻塚デッキを使っていた初心者たちは、他のデッキを学ぶことなく、速攻に対してコントロールを機能的に運用する序盤ターンの戦略を何も考えてこなかったから、ゲームの出だしでミカファールに何もできず負け続けた。それだけです。ですからミラーマッチでは40分試合を続けて10体以上のスピリットを並べても、互いに運でシェイロン+デスを引くまで何も打つ手が無い。
 第1弾環境の終盤にはきちんと初動戦略を備えた紫緑デッキは出てきましたし、シェイロンデスに不満のあったプレイヤーの多くは、緑主体のビートコントロールに移行しました。それがゲームの習熟に沿った自然な動きだと思います。おそらくデザイナー側は、バトスピが速攻の戦略思考を基調とするゲームであり、だらだら怠惰に続く試合を環境から減らすべく、第2弾でのミカコンボデッキの導入を意図的に許容したのでしょう。
 実際ミカファールコンボの習熟と共に、私はこのデッキに明確なデザイン上の性能限界が存在することが意識できましたし、多分第3弾環境では強デッキタイプの一つとして残るにしても、また相対的に地位をさげるであろう部分が見えてきています。いつかエリオットさんの掌から逃れ出たいなぁ〜。

 ゲームデザインの賜物と考えると、ミカファールコンボはかなり良く出来たデッキタイプです。まず、相当な技術がないと実戦レベルではまともに回りません。カードキングダムのコピーなんか論外です。デッキ構築の分析と理解だけでなく、プレイングも含めた総合的な戦略を視野に入れないと、とても大会で勝てる強さを発揮できないのです。
 これはかなり玄人向けの戦略で、本気の競技プレイヤーで無い限り苦労に見合いません。勉強を兼ねてやってみてもいいですが、かなりハードですよ……筑波大学MTGサークル「Concordant Crossroads」のコンボデッキの達人てらしまさんと、停滞ロック専門家の佐藤さんの二人の先輩にゲームを教わり、CC会員のスパーリングパートナーとしてズヴィーバーゲンやネクロドネイトを研究し回した私ですが、ミカコンボで安定して大会で勝てる自信はまるでないです。現在の暫定完成形がまだプリープレイでは無敗だとしても(笑)。
 しかし、現実にミカコンボを中心にプレイしているプレイヤーは結構な数います。その大半は、勝てないからコピーのシェイロンデスを捨ててコピーのミカコンボに乗り換えた初心者グループです。彼らは初心者同士では十分な戦績を上げるでしょう。その相手なら先に公開した私の紫速攻ビートで十分以上に太刀打ちできます。重要なのは、本当の熟練者が扱うミカコンボデッキで、これまで私がコンボ後の泥仕合に巻き込んで何とか倒してきた、かなりの猛者のプレイヤーもきちんと存在する点にあります。
 
 正直言えば、私の以前の予測に似て『環境は「速攻」「ミカファールコンボ」「コントロール」の3極化』にトップレベルで移行していると思います。そしてこの次元では、もはやデッキの相性差はほとんど意味を成しません。速攻はむしろミカファールに弱い、なぜならミカコンボが基本デザインの頃から対策してきた相手だから、手の内は筒抜け。ここでは純粋に卓に座ったプレイヤー同士の読み合いとプレイングスキルの勝負です。
 ミカコンボはこの世界でも相変わらず安定していません。おそらく基本スペックが実戦的に安定する日は永遠に無いでしょう。しかしその問題はほぼ完全にプレイスキルと、個人のプレイングに合わせたデッキのカスタマイズで補完されます。おそらく、この「克服可能な不安定性」がハイレベル競技プレイヤーがミカコンボを主戦略に採択する最大の理由です。
 ネット時代以降、TCGのデッキ情報はどんどん公開され、大きな競技ゲームは情報戦の状況です。そしてプレイヤーにとってメタゲーム上で最大の敵は、仮想敵でも天敵でもなく同型デッキやコピーデッキとなりました。「決勝戦の相手が、昨夜一緒にデッキ調整/スパーリングした仲間」というのはもはや日常茶飯事、しかしプロレベルのプレイヤーならそれでも勝たなければなりません。そして比較的簡単に人に真似られて、自分と同等の実力を発揮しうるデッキはメインデッキとしては選びづらく、むしろ仮想敵にすべきです。
 そういう理由から、ミカファールコンボデッキをプレイしている熟練プレイヤーは絶対多いはずです。自分の腕に自信があれば、同型対決で格下に負けることは確率的にほぼ無い以上、デッキではなく本当の実力で勝つゲームができる。それは大変魅力的な要素です。私も自分の速攻デッキに対する技術や理解には自信があり、確率の悪魔には多少敬意を払いつつも、今の状況なら実力で勝てる部分が大きいと信じているため、この方面の戦略を中心に考えているのです。とはいえ最近ミラーの練習不足でよく速攻同士で邪くんに負けますが……

 バトスピのプレイヤーの全てが、こんなにタイトな競技プレイヤーになれとは言いません。程よく確率的な要素が含まれたデザインが、このゲームに一定の魅力を与えていますし。しかし同時に、この確率性を「技量によってカバーできる」場面が大きいと最初のプレイから直感的に感じたゆえに、私はこのゲームを続けています。そして大好きです。自分の運命を我が手に取り戻し、圧倒的な逆境から這い上がれるのはまさにバードの語る勝負師のエクスタシー。"No Ecstacy, No Galaxy!"を標語にでもしようかしら。
 ですから、きちんと自分の手で倒せると分かった暁には、感情に駆られてミカコンボデッキを悪く言わないで欲しいと思います(あと速攻デッキもね。相手の1枚目のカードからデッキの7割を読み切って、詰め将棋のように先手3ターンで勝つのは結構大変なんですから)。きちんと組めばシェイロンデスだってミカファールに勝てるんです。もっともその時にはどちらも1積みで、「ズガインスコープ」とかデッキ名が変わってるかもしれませんけど。そこは時代の流れでしょ。

 これからゲームに習熟していくバトスピプレイヤーの方々には、自分が好きになれたカード/デッキを信じる力、そしてそれを十分に楽しく実践的なデッキに仕上げる知識・技術・強さを嫌がらずに身に付けて欲しいと願っています。ミカコンボはそのための試練です。
 TCGは好きに遊んでいても楽しいですが、勝てば勝ったでで固有の楽しみがあるように作られてもいます。勝つために強さを希求する努力もそれはそれで楽しい。そしてある程度十分なプレイヤーとしての強さを身に付け、その上で自分の好みで気楽に遊ぶのが一番楽しいんです。これが、かつてのヒヨッコから10年以上かけて人並みの実力を身に付けられた、TCG馬鹿が若手プレイヤーに送る言葉です。