「ドミニオン:陰謀」初見&初プレイ感想

 各種TCGその他が忙しくてすっかり忘れてましたが、先週末にドミニオンの追加セットドミニオン:陰謀」が発売されてました。7月5日は土浦のTCG大会でバンダイ系はお休みだったので↑のレンストドラフト記事を書く予定でしたが、「〜:陰謀」の発売をその日の朝に知って急遽、自転車を飛ばしわんぱく小僧で買い求めて来た次第です。

 一応その日の亀城プラザの大会会場で遊ぶ人がいないか誘ってはみましたけれど、暇がないかTCG以外には全く興味ないプレイヤーばかりだったので、結局卓は立ちませんでした。なのでその場ではマクロスクルセイドのフリープレイ見てましたが、これも結構興味深いもので……

 とまぁ、余談はさておき。

・概観

 『陰謀』の内容は、まさしくドミニオンの名を冠するに相応しいものだと思います。単体でも自立したゲームとして遊べる追加セット、ということで何かしら基本セットとは異なる設計コンセプトの土台に立脚した内容になるだろう、とは予測してました。そして実際そうなっている、まさしくTCGボードゲームの長所と本質を重ね合わせた画期的ゲームならでは。

 基本セットのゲーム構成は、基本的にポジティブフローよる蓄積のレースです。それらは場の(限られた特定の)得点手段の獲得へ収束するように設計されていて、王国カードの効果も単純・明確でストレートに強力なものでした。(※このため一部で「インタラクションが弱いゲーム」などど評されもしましたが、それは一面的な見方に過ぎません。例えば→参考文献:「遊星からのフリーキック>ゲーム・論考:ソロプレイ感ってなんだhttp://ter.ath.cx/yusei/yuseiki/%E3%82%BD%E3%83%AD%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%A4%E6%84%9F%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%AA%E3%82%93%E3%81%A0

 対して『陰謀』では、ドミニオンの機軸である「蓄積と体系化による戦略」の枠組みは維持しつつ、
 −戦略の収束点をより多面化し、
 −「インタラクション」ではなく、他のプレイヤーの行動(あるいは行動予測)に対するリアクションの選択肢を幅広く提供した
 という構成を提示しています。これによって『陰謀』環境でのプレイングはより他のプレイヤーの行動を意識した性質が加味される(よりTCG的になった、とも言える)でしょうし、「ドミニオンレシピ」(「遊星からのフリーキック」、http://ter.ath.cx/yusei/yuseiki/%E3%80%8E%E3%83%89%E3%83%9F%E3%83%8B%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%AC%E3%82%B7%E3%83%94%E3%80%8F%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%81%9F)で述べられたような『定石としての戦略』への依存が若干薄れ、よりアドリブな戦術行動が強い意味を持つでしょう。戦術が事前の『戦略・モデル』分析の文脈で想定・言及され得ないというわけではないですが、細部や末端の占めるウェイトが増すことで、トップダウンな視点よりも個別のオブジェクトやタイミングの優位が生まれることになるとは思われます。(※とはいえ、それらも最終的には一種の大きな『戦略』に包括されるでしょうが……)

 『陰謀』は独自のコンセプトに基いたゲームとして固有の魅力・特長を持っており、基本セットと好みが分かれるかもしれません。それはそれでいいでしょう。TCGプレイヤーだろうとボードゲーマーだろうと、どっちが好きになるかは好みや個人のゲーム観次第です。
 ちなみに、両者を合わせた環境でプレイすると、現状で提供されている戦略オプションの大小粗密を完備した状況が発生するため、ゲーム準備をセッティングした時点で戦略選択肢の優位に格差が生まれ過ぎて、過激なゲームになるような気が私には漠然としています。カタンのように『3人分しか選択肢はない』ということにはならないでしょうが、毅基本セットの「魔女」「庭園」のような全員で単一か二者択一の戦略を一斉に追うゲーム傾向になるかもしれない。
 それもドミニオンらしい場ではありますが、競技性はともかく座のプレイヤーにとって楽しめる卓かどうか、という点は一考すべきかもしれません。ゲームへの理解がより作品のゲーム性を引き出せるよう遊び方を考える、と。つくばの私の周囲では(本当の『画期的な新ゲーム』にはよくあるケースですが)ドミニオンはむしろ既存のボードゲーマーには受けが悪く、それよりもずっと多数の新期プレイヤーを獲得したゲームだったので……

・カード雑感

 個別の王国カードについて、数回試行錯誤しつつ遊んだ印象を書いてみます。私自身からあまり詳しくここに書いても仕方ないかな、とも思うので特に人に求められなければ多分続きを書くことはないでしょう。てらしまさんも今後「ドミニオンレシピ」の続きを編纂するかどうかの見通しは微妙、とゲームマーケットではおっしゃってましたし。

 私の覚え書程度のもの、とご理解下さい。

  • 中庭(2)

 個人的にはゲームデザインのレベルの高さに感嘆した一枚です。文章上はごく単純な効果ですが、ゲームの根幹に関わるリソース運用に関連した性質を持っています。現状では最強のドローソースかもしれません。問題はコストが2という点でしょうか。ドミニオンにおいて2コストの買物はそれだけで大きなデメリットなので、概して2コストカードの効果は強く設定されている。だからこんなパワーカードが許容された、とも言えます。

  • 鉄工所(4)

 非常に強い「工房」……私が単に工房好きなだけですけど(笑)。「大広間」を取る動きが強力な(しかし戦略を束縛する)コンボを形成しますが、それによらず銀貨でも屋敷でも、用途さえ考えられていれば何取っても強い。でも『アクションカードを取るとアクション消費無し』という特性がターボアクション構造を自己形成でき、「工房」とは次元の違う、戦略の要として機能するレベルにまで到達しています。
 ※でも、じゃあこのカードを使う方がより効率が良いか、という点は保障できていませんけどね。強力な要であるからこそ、それを介して利用できる行動の価値に従属して、そんなカードです。

  • 交易場(5)

 実際は微妙な圧縮カードです。コストが高い分、テンポを失わない(ドミニオンではテンポを失わない高圧縮カードは高コストでなければならない)のですが、得られるものがしょぼい。とはいえ『陰謀』環境では圧縮に戦略を収束できるほど強力な選択肢が他には少ないので、序盤にのみ利用する方法が一般的になるでしょう。

  • 執事(3)

 器用貧乏な銀貨(何が弱いって、銀貨と同じ3コストであることが一番弱い)。今回登場した選択型カードの中でも特に弱く、最も重要な効果を見ると圧縮カードとしても弱い。しかしコレしかまともなドローソースがない/圧縮手段がない、というときに必要なものを全て賄える性質を持ちます。シチュエーション依存の時価カード、と割り切れば評価できる価値が見えてきます。
 追記:済みません執事舐めてました。これ超強いです。ドローソースとして中庭に次ぐカードパワーを持ちます。ただし使いこなすためにはかなりの練習が必要で、妨害にも弱いし運依存の部分もあるし、正直言って努力に見合うかどうかは疑問です。これも「目に見える『銀貨』以上の何か」でした……うぉ〜ドミニオンすげー。

  • 願いの井戸(3

 どう見ても弱いのは確かですが、ソリティア時に買い物を「願いの井戸」「銅細工師」「属州」「金貨」1枚の「改良」だけにして(あとは7枚の銅貨、屋敷は改良で願いの井戸にした)ひたすらカードカウンティングに徹したら、ヒット率約7割でステロイド並のスピードが出せました。でも疲れるのでもう二度とやりたくはありません。

  • 手先(2)

 超強い。どの効果選んでも強い。2コストカードですし。
 ただ圧縮ドローのためだけにこれ何枚も買うのは明日を見失ってる……それではただの銅貨にしかならないね。

  • 詐欺師(3)

 最強の呪い戦略カード(笑)、という話はさておき。
 −銀貨相当の生産力があり、ゲーム序盤にこそ最も効果がある、という点でまずかなり強力なカードです。
 −中盤以降も攻撃効果には十分価値があります。こいつが野放しだととにかく怖くてあらゆる5コストカードが買えません。それらのカード群に依存する戦略の株価がガタ減りします(それは反面で一種のチャンスでもありますが)。
 −終盤では得点カードに対する影響が被害甚大でしょう。「属州」廃棄→また「属州」取らせる、この行為が既に大変なことになる。
 有効に使うためには、相手のデッキや戦略の観察、場のカードの構成、自分とのインタラクションなどなど、ドミニオンのゲーム構造に対する使用者の理解が問われます。つまりこのカードにハッキリと「強い/弱い」という価値判断を下せる人ほど、このゲームの強者でなないかと推測。

  • 公爵(5)

 属州に代わる勝利得点源の選択肢として十分有効です。取り方の順番は「公領4枚」「公爵1枚(4点)」「公領1枚(3点+1点追加)」「公爵(5点)」「公領1枚(3点+2点追加)」で8枚30点総コスト40を目指すのが最善ではないかと。属州狙いのステロイドと標準性能では同等のスピードだと思われますが、果たして?

  • 大広間(3)

 買い易い得点カードで、圧縮ドローと思えば負担にはなりませんが、それでも買う事が是とならない場合がある点には留意すべきです。
 −デッキ全体の平均生産力が1金未満のとき(それは素直に銀貨買えよ……)
 −メインアクションがアクション消費のあるドローソースのとき
 主に「工房」「鉄工所」「貢物」「貧民街」の存在によって市場相場が変動します。

  • 改良(5)

 非常に強いカードで、アクション・カード消費がないためとにかく無駄にならない。
 −通常は、銅貨を潰すと圧縮になる。
 −もちろん改築効果としても使用可能で、その場合猛スピードでデッキを改造し始める。複数枚使用(同型カードでも可)が推奨。
 −自分を改良して金貨にできる→勝利手段に十分結びつく。
 問題は、改良を主軸にした戦略には十分有効な3〜6コストのカード群が必要ですが、4コスト枠だけが『陰謀』環境では保障されておらず不足している(3「銀貨」5「改良」「公領」6「金貨」)。そこが埋められるかどうかで、このカードの位置が決まりますね。でもやっぱり強い。

 やばい。多分このやばさは「魔女」に匹敵すると思う。
 何故か。このカードを魔女同様、単純にただ使いまわし打ち続けるだけのデッキ戦略を考えてみる……
 −ゲーム序盤はほぼ2ターンに1回、3周目から毎ターン1回のペースでこのカードが飛んでくるようになる。毎ターン1回、3コスト以上のカードを1枚買う前提の戦略は完全に破綻する。何を買っても→「銀貨」→「銅貨」「屋敷」の末路になる。
 −「魔女」同様、非常に低生産力な場にゲーム全体が抑制される場が発生する。破壊工作員戦略のプレイヤーはアクション無しステロイドを続けるから、やはり低得点ペースに留まる。3山切れでゲームは終わり、破壊側VS他の屋敷の得点で勝敗が決まる。
 −これを試みるプレイヤーが複数人いても構わない。というかそれは積極的に肯定される。なぜなら「破壊工作員」のカードが破壊された場合、それを銀貨に替えられる(全くデメリットがない)から。破壊工作員を追従して買う行為が、それに対する防衛策を兼ねている。
 −終局的に、一人の破壊プレイヤーとその他だけになり、その辺で得点競争のデッドヒートが始まる。
 対策は購入数を積極的に増やし、生産力+防衛策として銀貨を集めまくることか。そして屋敷か2コストアクションを買う。正直言ってどっちに有利があるかは、まだ未知数。

  • 橋(4)

 超強い。単体であまりに強く、コンボ的な使い方が否定されるくらいに。圧縮併用の橋ステロイドで属州と公領&公爵のどっちを買えば強いか、はソリティアで試した範囲では、引きの問題という印象でした。

  • 貴族(6)

 +2アクションに使え、ってこと?偵察員戦略ではハーレムよりはこっちの方が強いけど……

  • 偵察員(4)

 得点、もしくは得点兼効果カードを引くのに使うのは、あまり強くない。というか普通に他のドローソース使うべき。圧縮や自分の山の上のカードを操作するのに使うと、ちょっと便利。ただしその場合コスト4がやや高いので、金で買わずに獲得する方法が推奨される。結局は、他のカードに価値が従属しているコンボカードか?

  • 秘密の部屋(2)

 守れてない。

  • 共謀者(4)

 使ってる暇があったらイイナ。

  • 鉱山の村(4)

 「ここはどこだ?」「村だ」
 とはいえずっと強い村。このカードの存在はターボアクション戦略のスピードを底上げできる可能性が高く、『陰謀』の環境コンセプトにも適している。結局のところ、「村」は一般価値の低い割に、使用する戦略では効果の必需性が高く代替性の薄いカードなので、コストが3でも4でも変わらない。これまでも村使うデッキは3,4円に関わらず村も銀貨も買ってたし。気をつける必要があるとすれば、手頃な購入権カードがあるかどうか(『陰謀』では作為的に数が絞られている)でしょうか。

  • 貧民街(3)

 白日くんの貧民街ステロイドはマジで強そうでした。でも詐欺師で銀貨をもっと貧民街に替えてあげてたら悶絶してました。

  • 男爵(4)

 2周目に金貨が買える、というのは実際大きい。ただしその価値をデッキ中で維持するためにはその後「銅貨」「屋敷」「男爵」と順次圧縮していく必要があるわけで……これ自体で回る戦略が発見されない限りは、出口戦略の事前計画は必須。
 あとこれと「鉄工所」は現時点で最強の庭園補助カード。

  • 銅細工師(4)

 上の「男爵」とほぼ同じ問題構図かな……面白いカードだし、こっちはターボアクション戦略に移行した後も価値が残るのだけれど、銀貨を買わず圧縮もないとやはり序中盤での立ち上がりがきつい。何か考えたい。

  • 寵臣(5)

 実は何かと強い。リアクション的な用途で十分強い『銀貨相当の何かそれ以上』。本当の用途は攻撃ではなく「手札を4枚に引き直す」部分。「地下室」「図書館」「銀貨」の全ての用途を賄い、相手の手札攻撃カードへの対策にもなる。そして「破壊工作員」「拷問人」「魔女」など強力攻撃カードの最大の相棒でもある。

  • 拷問人(5)

 私はジーン・ウルフの「拷問者の影」(ハヤカワSF文庫)に出会って以来ずっと拷問者ファンだったので、ゲームマーケットの体験会卓でこれの弱さを見たときはもうがっかりでした……やっぱり弱いです。一応ターボアクションによってハメパターンがありますが、そこまでやるなら「民兵」で十分かさっさと得点買えよ!という話。買う場合があるとすれば、初手が2・5金で5に他に買うカードがないときだけでしょう。多分交易場にも一歩遅れを取ってる……
 拷問人が唯一他の5コスト候補より役に立つ場合は、既に誰かが拷問人を買っている場合です。一人では微妙な拷問人でも、他のプレイヤーに乗っかって続けて使えば効果倍増!(これぞ「拷問者組合」!!まさに外道)。その場合他人の拷問人から自分を守るために「寵臣」を買うべき(というかこっちの方が強い)。あと拷問人が相乗りしすぎてみんな拷問する側に回るとゲームが破綻する。

  • ハーレム(6)

 とりあえずステロイドが終盤に買う金貨か、公爵狙いの時に買う擬似金貨として有効。

  • 貢物(5)

 強い。序盤に撃ったら強いから初手買い候補になりうる。中盤以降も相手のデッキ・戦略を理解していれば強く使える。なによりこれは相手のデッキのカードを捨てさせるのに、攻撃効果じゃない。適当に撃っているだけで、相手は対応策を講じるか苦しむことになる。
 −どの効果も十分有用だが、通常の価値は金>ドロー>アクションの順。これが序盤に強い理由でもある。
 −ステロイドはデッキ内価値を平均扱いする戦略なので、このカードに本来は一番耐性があるはずで、それ故に効果の重み付けが上記のようにステロイドを狙い撃ちしたものになっている、とデザイン思想上は考えられる。
 −そして下客のステロイド対策に使った場合……このカードの効果を最も上手く利用できる自分側のデッキ構造もステロイドになる。面白い話で、つまり「朱に交われば赤くなる」ということですかね?まさに『貢物』。
 −上客が貢物スタートしたら、それに対策(必要あるのか?)するとしたら、有効なのは自分がターボアクション戦略になってしまうこと。+4アクション(しかも不確定)貰ったところで……普通は相手はもう引き返しができない。
 詐欺師と同じですが、ゲームと場に対する理解の多寡で価値が決まるカード。

  • 仮面舞踏会(3)

 TCG流の客観価値で見れば、多分今回の最強カード。あまりに強いから、4コストじゃなく3コストになったのだと思われる。この効果のままコストだけ4だったらむしろより強い。
 圧縮とドロー(テンポ確保)を同時に行い、微弱ながらデッキ破壊効果のオマケつき。しかも攻撃カードじゃない。単体の効果価値総量がさすがに銀貨相当なので「金貸し」には劣るが、テンポ発生の形態がドローである点を考えると、他のカードの支援がなければ回転性質からより強いとも言える。
 唯一の弱点は、本当にたった一つ。銀貨と同コストであることだけ。